はじめに:賢人の言葉で、投資をさらに深く
前回の記事では、ウォーレン・バフェットをはじめとする投資界の巨人たちの言葉をご紹介しました。彼らの言葉は、市場という荒波を航海するための普遍的な羅針盤として、今なお輝きを放っています。
今回はその続編として、さらに多くの賢人たちの名言を深掘りしていきます。成長株投資の父フィリップ・フィッシャー、バフェットの盟友チャーリー・マンガー、インデックス投資の創始者ジョン・C・ボーグル、そして日本の伝説的相場師、是川銀蔵。
彼らの投資スタイルは様々ですが、その根底に流れる哲学には、私たちが学ぶべき多くの共通点があります。多様な視点から紡ぎ出される言葉に触れることで、ご自身の投資スタイルを確立し、より深いレベルで市場と向き合うための一助となれば幸いです。
成長性を見抜くための視点
企業の将来性を見抜き、その成長と共に資産を拡大させる「成長株投資」。その本質とは何なのでしょうか。
フィリップ・フィッシャーの信念
投資家が犯す最も大きな過ちの一つは、並の会社の株を割安な価格で買うことだ。 (The biggest mistake an investor can make is to buy a mediocre company at a cheap price.)
これはウォーレン・バフェットに多大な影響を与えた「成長株投資の父」フィリップ・フィッシャーの哲学です。彼は、株価が安いという理由だけで凡庸な企業に投資するのではなく、たとえ株価が適正(あるいは少し割高)に見えても、長期的に圧倒的な成長を遂げるであろう卓越した企業に投資することの重要性を説きました。
フィッシャーは、企業の競争優位性や経営陣の質、研究開発力などを徹底的に調査する「徹底調査(Scuttlebutt)」という手法を編み出しました。目先の株価や指標だけでなく、その企業が10年後、20年後に業界のリーダーであり続けられるかという長期的な視点を持つこと。これこそが、資産を飛躍的に増やすための鍵となります。
賢明な判断を下すための思考法
投資は情報戦であり、心理戦でもあります。複雑な事象をシンプルに捉え、感情的な間違いを避けるための思考法とはどのようなものでしょうか。
チャーリー・マンガーの逆説的思考
私が知りたいのは、自分がどこで死ぬかだ。そうすれば、私は決してそこへは行かないだろう。 (All I want to know is where I’m going to die, so I’ll never go there.)
ウォーレン・バフェットの右腕としてバークシャー・ハサウェイを率いたチャーリー・マンガーの言葉です。これは「成功する方法」を考える前に、「失敗する原因」を徹底的に学び、それを避けることの重要性を示唆しています。
投資において大きなリターンを夢見る人は多いですが、マンガーはまず「致命的な失敗をしないこと」を最優先に考えました。彼は、過去の投資家たちがどのような過ちを犯して市場から去っていったかを徹底的に研究しました。過度なレバレッジ、理解できないビジネスへの投資、群集心理への同調など、典型的な失敗パターンをリストアップし、自らがその轍を踏まないように細心の注意を払ったのです。
成功への道を駆け上がるよりも、まずは破滅へと続く落とし穴を避ける。この「反転思考」は、長期的に市場で生き残るための極めて重要な知恵と言えるでしょう。
市場全体を味方につける戦略
個別株を選ぶ知識や時間がない、という投資家にとって、市場の成長そのものをリターンに変える方法があります。
ジョン・C・ボーグルの哲学
干し草の山から針を探すな。干し草の山を丸ごと買えばいい。 (Don’t look for the needle in the haystack. Just buy the haystack.)
インデックスファンドの生みの親であり、バンガード社の創業者ジョン・C・ボーグルの思想を端的に表した言葉です。
多くの投資家やファンドマネージャーは、市場平均を上回るリターンを目指し、次のアマゾンやグーグルとなる「針(=有望株)」を探し求めます。しかしボーグルは、その試みのほとんどが、手数料や取引コストによって、結局は「干し草の山(=市場平均)」に負けるという事実を喝破しました。
それならば、最初から特定の針を探すことをやめ、低コストで市場全体(S&P500など)に連動するインデックスファンドを買い、長期的に保有し続ける方が、結果的に多くの投資家にとって賢明な選択となる。このシンプルかつ強力な哲学は、世界中の個人投資家に資産形成の道を開きました。
日本の偉人に学ぶ相場の極意
海外の投資家だけでなく、日本の相場師もまた、含蓄のある言葉を残しています。
是川銀蔵の投資五原則
人の行く裏に道あり花の山、いずれを行くも相場は自己責任と知れ。
「最後の相場師」と呼ばれた是川銀蔵が残した「投資五原則」の最後の一節です。これは、ジョン・テンプルトンの逆張り精神にも通じるものがあります。
多くの人が熱狂し、特定の銘柄に殺到している時は、すでに利益を得る機会は少ないか、あるいは高値掴みのリスクが高まっています。むしろ、誰もが見向きもしないような不人気な銘柄の中にこそ、大きなチャンス(花の山)が眠っている、と彼は説きました。
ただし、そのためには徹底した調査と分析が不可欠であり、その他大勢と違う道を行くことには当然リスクも伴います。だからこそ、その判断の最終的な責任はすべて自分自身にある、という厳しい覚悟を求めています。他人の意見に流されず、自らの信念に基づいて行動することの重要性を説く、力強い言葉です。
まとめ:多様な知恵を、自分だけの力に
今回ご紹介した賢人たちの言葉は、それぞれ異なる角度から投資の真実を照らし出しています。成長株投資の徹底的な分析、失敗を避ける逆説的思考、市場全体を味方につける合理性、そして群集心理の裏をかく勇気。
これらの多様なアプローチの中に、唯一絶対の正解というものはありません。大切なのは、これらの知恵の断片を学び、組み合わせ、自分自身の性格やライフプラン、リスク許容度に合った、オーダーメイドの投資哲学を構築していくことです。
先人たちの言葉を地図として、あなた自身の投資の旅を、より豊かで実りあるものにしてください。
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